2025年度から新たに始まる「江戸東京伝統芸能祭」は、半世紀以上にわたり親しまれてきた「都民芸術フェスティバル」を継承し、能楽、日本舞踊、邦楽、寄席芸能、民俗芸能など、日本の伝統芸能に特化した祭典として生まれ変わりました。本格的な舞台公演から、気軽に参加できる体験型ワークショップまで、子どもから大人まで幅広い世代にお楽しみいただけます。

インタビュアー ・ 編集 : 阿部さとみ(舞踊評論家)|
撮影 : 菅原康太|
『小袖曽我』舞台写真提供 :(公社)日本舞踊協会

長唄『小袖曽我』稽古の様子
日本舞踊は2023年に国の重要無形文化財に指定されました。
「第67回日本舞踊協会公演」では、第一線で活躍する日本舞踊家が流派を越えて共演し、日本舞踊ならではの多彩な演目を二日間にわたって披露します。古くから伝わってきた演目、新しく作られた演目等、彩り豊かなラインナップで多様な日本舞踊の魅力が一度に観られる公演です。今回は、本公演の2日目(2月15日)夜の部『小袖曽我』に出演する日本舞踊家の皆さんに、演目への思いや舞台の見どころを語っていただきました!
日本三大仇討ちの一つ「曽我兄弟」の物語で、曽我十郎と五郎の兄弟と母の情愛を描いた作品です。場面は兄弟の母・満江の屋敷。曽我十郎と五郎の兄弟は幼い頃に父親を討たれ、仇討ちを果たすために、十八年もの間、様々な苦労をしてきました。そしてこの度、いよいよ親の敵を討つ機会を得て、母に五郎の勘当の許しを請いにやってきます。今もなお怒りの解けない母は十郎としか会おうとしなかったのですが、十郎のとりなしでついに五郎を許します。兄弟は母との別れを惜しみながら、目指す敵のいる富士の裾野に旅立っていきます。
初演は昭和13年(1938)12月、「第二十四回花柳舞踊研究会」新橋演舞場。長編の舞踊劇『曽我絵巻』の中の一場として作られました(振付:二代花柳壽輔)。題材は南北朝時代頃の成立といわれる『曽我物語』の一部。それを昭和になって作ったのですから、いわば古くて新しい日本舞踊といえるでしょう。


長唄『小袖曽我』
第59回日本舞踊協会公演(2016年2月)にて上演
曽我十郎・五郎という若き兄弟の絆、そして彼らを見守り、時には厳しく突き放さねばならない母・満江、兄弟それぞれの婚約者の腰元・片貝と十六夜。一人一人が何をどう描いていくか、担当の花柳輔太朗氏、母・満江役の藤蔭静枝氏、曽我十郎役の水木佑歌氏、曽我五郎役の藤間恵都子氏に、女性ならではの技芸で見せる、意気込みを伺いました。
本作品の指導を担当した花柳輔太朗氏は、「親子の情が深いこと、とりわけ、母親の満江にとって五郎という人物が可愛くて仕方がない、というのがまず出ることが大切」で、「兄弟の思いを腰元(実は十郎と五郎の婚約者)が受け取り、母へ伝えるなど、その情が伝われば、この作品の良さが浮かび上がってくる」と語ります。

指導を担当した 花柳輔太朗 氏
母・満江は、いままでも家元クラスが演じてきた重い役どころ。藤蔭静枝氏は「お話をいただいた時に、自分でよいのか」とためらったといい、そして「勤めるからには、作品を皆様にわかっていただけるように…、特に出来の悪い子ほど可愛いというように、五郎に対する愛の深さ、許したいのに簡単には許せないといった、感情を殺しながら、内面にある熱い思いといったものを、どのように出せるかが一番の課題と思いながら取り組んでいます」。

兄弟の母 ・ 満江を演じる 藤蔭静枝 氏
母と五郎の間を取り持つのが兄の十郎。水木佑歌氏は、柔らかみを保ちつつ、女性っぽくなってはいけない身のこなしという難しさに加え、「なんとかして母に弟の勘当を解いて欲しい、長男として、兄として、母と弟のそれぞれの思いを汲み取り二人をつなぐ役です。母に会う時と五郎に対する時とを演じ分けていくところに繊細な演技が求められます。」、「稽古は発見の連続で、今回のような衣裳での経験もまだ多くはありませんが、試行錯誤を重ねながら、一つずつ着実に積み上げていきたい。」と語ります。

曽我十郎を演じる 水木佑歌 氏
長年、母に勘当されていた五郎。藤間恵都子氏は語ります。「五郎はわんぱくな役柄ですが、子どもではありません。兄が大好きで、兄の言うことは何でも聞く、お兄ちゃんと一緒に最後は死ぬんだと!兄へのリスペクトと愛がとても深い。一方で、母に対しては甘えたい気持ちを抱えながらも、出すに出せない、二人を尊敬しながら守られている、そうした五郎を演じられたら」、また「花柳流の振りは、きちんとその通りに進めていくと作品世界の物語として成立していくようにできているということを、今回実感しました」。

曽我五郎を演じる 藤間恵都子 氏

今回のような演劇的な作品にこの三人のメンバーで取り組むのは初めて、とはいえ、稽古を重ねるうちに、自然と手応えが見えてきたとか。この世での親子最後の対面。母も五郎を勘当しながらも、訪ねてくるのを心待ちにして、小袖を用意していた、そんな読みも立ち上がってきました。また、花柳輔太朗氏からは「きっと素敵な舞台に作り上げてくれる」という言葉。そして、「男性がやるような力強さとは違う、彼女たちなりの五郎、十郎ができたらいい」と、女性ならではの役の造形への期待が寄せられました。
様式美の中でそれぞれの情が受け渡されていく時間を、是非客席でご覧ください。

2026年2月14日・15日(土・日)、浅草公会堂にて開催!
人気の古典舞踊や近現代の創作舞踊、そして上方舞まで、
日本舞踊ならではのバラエティ豊かな演目を
2日間にわたってご覧に入れます。
日本舞踊界のベテランから若手まで、
第一線で活躍する舞踊家が流派を超えて共演。
現代までいきいきと受け継がれてきた日本舞踊の豊かな魅力を
ぜひ劇場でご堪能ください。
花柳輔太朗
父・花柳誠三郎に師事。日本舞踊協会主催公演ほか国内外の公演に多数出演。
現在、東京藝術大学音楽学部邦楽科日本舞踊専攻の教授として舞踊家を目指す学生の指導にあたる他、
洗足学園音楽大学客員教授を務める。
また、浅草三業組合、博多券番、東京神楽坂組合、上七軒歌舞会の専属師匠として門弟と芸妓の育成に尽力。
主な受賞に文化庁芸術祭賞、花柳壽應賞新人賞、東京新聞舞踊芸術賞。花柳流花柳会理事。
重要無形文化財「日本舞踊」総合認定保持者。藤蔭静枝
日本舞踊藤蔭流三世家元。藤間紋瑠里として活動後、1997年に藤蔭流三世家元継承。
三世藤蔭静枝となる。日本舞踊協会主催公演、国立劇場主催公演に出演や振付で参加するほか、
自身のリサイタルも主宰。大田区内の小学校でワークショップを行うなど普及活動にも取り組む。
主な受賞に文化庁長官表彰、文化庁芸術祭賞、新春舞踊大会会長賞、東京新聞舞踊芸術賞など。
東京支部城南ブロック相談役。重要無形文化財「日本舞踊」総合認定保持者。水木佑歌
水木流東京水木会理事長。日本舞踊協会主催公演、国立劇場主催公演に多数出演。
商業演劇やCM、海外公演(22か国30都市)の出演や振付、所作指導など多方面で活動。
主な受賞に新春舞踊大会文部大臣奨励賞、東京新聞舞踊芸術賞、舞踊批評家協会賞、
東京新聞舞踊芸術賞など。日本舞踊協会理事。重要無形文化財「日本舞踊」総合認定保持者。藤間恵都子
母・藤間勘十代、藤間藤太郎に師事。地唄舞・吉村雄輝夫に師事。
日本舞踊協会主催公演、国立劇場主催公演をはじめ国内外の公演やテレビ等に多数出演。
主な受賞に文化庁芸術祭優秀賞、新春舞踊大会文部大臣奨励賞、花柳壽應賞新人賞、舞踊批評家協会新人賞など。
日本舞踊協会理事。日本大学芸術学部講師。重要無形文化財「日本舞踊」総合認定保持者。