難しくない!気軽に楽しめる能の世界に触れる! 江戸伝統芸能祭プレイベントライブレポート

能楽、歌舞伎、日本舞踊、邦楽、雅楽、寄席芸能、民俗芸能など、長く受け継がれてきた芸を体感できる「江戸東京伝統芸能祭」。そのプレイベントとして、10月24日(金)〜26日(日)の3日間にわたって日本橋三越本店の中央ホールにて「花のお江戸の伝統芸能祭!はじまりはじまり!」が開催されました。
2日目のテーマは「能楽、今に受け継がれた魅力と歴史」。能の成り立ちや流派の解説、そして大迫力の実演も堪能するイベントのライブレポートをお届けします!

寝てもOK⁉︎ 能はリラックスして楽しむもの ——

興味津々の来場者が詰めかけ、1階の客席のほか上階からも注目が集まる吹き抜けの会場。能楽師の武田宗典さんとフリーアナウンサーの永尾亜子さんによるトークからスタートです。
難しそうなイメージもある能。「よくわからないから、見ていたら寝てしまうかも…… と心配する方も多いのですが、寝ていただいても結構です!」と武田さんは話します。

「創始者である世阿弥は、能を人の心と体を元気にして寿命をのばす芸能であると考えていました。一般的にお芝居は話の筋を追う見方をしますが、能は美しい美術品を眺める感覚でご覧いただけるもの。意味がわからなくても伝わるものがあるところが魅力だと思っています」。
また、呉服屋の仕事もしているという永尾さんは、能の装束にも注目。「華やかな印象があります」というお話に、武田さんも頷きます。「日本の伝統芸能の舞台衣装のなかでも能装束は特に豪華だと思います。普通の着物よりも張りがあって重く硬いので、激しく舞うのは結構大変なんです」。

静と動、双方を目の前で体感できる実演 ——

会場には、江戸市中でおこなわれていた能の公演「勧進能」(かんじんのう)の様子を描いた錦絵も掲示されていました。
「当時は基本的には大名や将軍しか見ることができませんでしたが、年に数回は広く開放する機会もあり、一度の公演で5000人もの人が見ていたようです」と武田さん。「能の唄やセリフのことを謡(うたい)と言いますが、これをお稽古事として習うというのが江戸時代には非常に流行していました。現代でも能楽を習う人は多く、仕事帰りにお稽古する会社員の方もいらっしゃいますよ」。

また、能は幕府の式楽に定められ、各藩の大名は能の稽古をするよう命じられていたそう。能の謡を共通言語として持ち、同じ教養をつけていこうという試みでもあったようです。「その名残は今も残っているんです。主役を演じるシテ方には5つの流派がありますが、長崎の島原城ではお殿様が金剛流(こんごうりゅう)や観世流(かんぜりゅう)を贔屓していたので、今でもその流派以外のお稽古場がなかったり、石川県の金沢では同様に宝生流(ほうしょうりゅう)しかなかったりします」。
武田さんは観世流のシテ方能楽師ですが、各流派は能がうまれた室町時代の段階でほぼできあがっており、最も新しい喜多流(きたりゅう)でも江戸時代初期につくられたもの。日本舞踊など新しい流派が数多くうまれる伝統芸能もある一方、能は400年以上も五流だけで受け継がれてきたものなのです。
「能は成立が古く、そこから歌舞伎や人形浄瑠璃などができあがっているので、いわば兄貴分のような芸能です。幕府の庇護のもとで演じられていたという点でも、特殊な出発点を持っています」と武田さん。舞台の「楽屋」やテレビの「番組」という言葉も、実は能から始まった言葉。ほかの伝統芸能だけでなく、現代にもつながりや影響が多々あるということに驚かされます。

伝統芸能のなかでも特に成り立ちが古い能の歴史 ——

最後はいよいよ実演! この日2回あった公演のうち1回目は仕舞「玉之段」、2回目は舞囃子「高砂」が披露されました。仕舞「玉之段」は、竜に奪われた宝の珠を海士(あま)が取り返すため海に潜るという場面。竜に追われる海士が自分の腹を掻き切って珠を隠す鬼気迫る様子は、シンプルな動きながら圧倒される迫力。じっくりと想像力を働かせると、天女像そびえる日本橋三越の広い中央ホールがまるで深い海の底のように感じられます。

また、舞囃子「高砂」は関西の住吉神社の力強い神様が福を呼び込む舞で、能のなかでも代表的な祝言曲。お囃子が心沸き立つにぎやかさで、広い会場いっぱいに音が満ちるような盛り上がり! 「能は静かなイメージがありましたが、こんなに情熱的なのですね!」と永尾さんも大感激の様子でした。

能楽の世界をのぞく——
この春、注目の公演情報 ——

2026年2月28日には、「江戸東京伝統芸能祭」の一環で「能楽体感」という公演を予定。囃子や謡、能狂言の所作を体験し、能の鑑賞もできるというプログラムです。また、2026年2月15日には国立能楽堂で「第66回 式能」も。能楽の各流儀が一堂に会する能楽公演です。
このほかにも、解説書が配られたり、イヤホンで聴ける音声ガイドがあったりと、はじめてでも安心して足を運べる公演が多いとのこと。まずは一度体験してみることで、ぐっと敷居が低くなり、さらに興味が湧くこと間違いなしです!

中村こより

1993年東京生まれ、北海道育ち。
月刊誌「散歩の達人」などで街を歩いたりお店の話を聞いたりする記事を執筆。
地形図や古地図を眺める趣味が高じて江戸の文化も勉強中。

このコラムについて
企画
  • 主催企画
ジャンル
  • ライブレポート
  • 能楽
対象
  • 入門者向け