2025年度から新たに始まる「江戸東京伝統芸能祭」は、半世紀以上にわたり親しまれてきた「都民芸術フェスティバル」を継承し、能楽、日本舞踊、邦楽、寄席芸能、民俗芸能など、日本の伝統芸能に特化した祭典として生まれ変わりました。本格的な舞台公演から、気軽に参加できる体験型ワークショップまで、子どもから大人まで幅広い世代にお楽しみいただけます。

執筆 : 長谷川直子(一般社団法人雅楽協会 事務局長)|写真 : 菅原康太

能楽、歌舞伎、日本舞踊、邦楽、雅楽、寄席芸能、民俗芸能など、長く受け継がれてきた芸を体感できる「江戸東京伝統芸能祭」。
そのプレイベントとして、11月24日(月・休)、東京タワーメインデッキ1F Club333(クラブ・トリプルスリー)で「東京タワー 天空の雅楽」が開催されました。今回のイベントでは、雅楽を、演奏とトーク、さらに楽器体験を交えてご紹介。天空の特別な空間で繰り広げられたひとときを、レポートでお届けします!
11月の爽やかな秋晴れの日、高さ150mの東京タワーメインデッキ「Club333」で、「東京タワー 天空の雅楽」が開催されました。眼下に東京の街並みが広がる空間には、雅楽を楽しみに訪れた来場者が集まり、会場は早々に満席に。高い空と街の景色を臨む、非日常な雰囲気の中でプログラムが始まります。
日英通訳で司会を務めるダンカン レミさんの「日本最古の伝統芸能で、約1,300年にわたり受け継がれてきた雅楽をお届けします」という言葉を合図に、鮮やかな狩衣をまとった3名の演奏者が登場しました。手にしている楽器は、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)の3種類の管楽器。笙は野津輝男さん、篳篥は髙多祥司さん、龍笛は伊﨑善之さんが演奏します。
最初に演奏されたのは、組曲形式の演目「春鶯囀(しゅんのうでん)」の中から、一曲目の「遊声(ゆうせい)」。「春鶯囀」は、古代中国の王様が鶯(ウグイス)のさえずりを聞いて作らせたと伝えられています。笛の美しい旋律から始まり、遊ぶ鶯の声を思わせる、明るくのびやかな音楽が会場に広がります。笙・篳篥・龍笛が絡み合いながら進むフリーリズムの響きは、まさに「天空の雅楽」というタイトルにぴったり。澄んだ秋の空に溶け込むような音色が、メインデッキいっぱいに広がりました。


続いては、会場の大きなモニターを使った雅楽のトーク。
「雅楽は、日本古来の歌や舞、そして古代アジア大陸から伝わった音楽や舞が日本化され、平安時代に完成した芸能です」と話す伊﨑さん。画面いっぱいに楽器が映し出され、吹いても吸っても音が出る笙、15cmほどの小さなサイズから想像以上の音量を生み出す篳篥、竹に穴をあけたシンプルな構造の龍笛が、わかりやすく紹介されました。
次に演奏されたのは「春鶯囀」の中から「入破(じゅは)」。フリーリズムの「遊声」とは対照的に、こちらは拍が決められている曲です。鶯のさえずりを思わせる旋律が彩りを添えるこの曲を、今回はあえてゆったりした定番のテンポではなく、軽快で少しアグレッシブに演奏します、とのこと。地上の喧騒から離れた150mの高さの空間で、会場全体が雅楽の音にじっと耳を傾けていました。


そして最後は、空を舞う龍の鳴き声とも言われる「龍笛」の体験!会場にはインバウンドの来場者も多く、大人から子どもまで、それぞれが龍笛を手にします。「龍笛は音を出すのが難しい楽器なんです」と話しながら、息の入れ方を丁寧にアドバイスする伊﨑さん。音が出た瞬間、あちこちで笑顔がこぼれます。日本の芸能の源流とも言われる雅楽を、ぐっと身近に感じられる締めくくりとなりました。


かつては民衆の芸能ではなく、宮中や寺社で式楽として演奏されていた雅楽。現在では、劇場をはじめ、さまざまな場所で楽しめるようになりました。2026年3月6日には「江戸東京伝統芸能祭」の一環として、三越劇場で「雅楽・アジアの音楽 ~古代楽器の新たな交流~」が予定されており、雅楽を聞いたことがない方も、その魅力に触れるチャンスです!お見逃しなく!

2026年3月6日(金)、三越劇場にて開催!
千年以上の歴史を持つ雅楽は、古代アジアから日本に伝わり、
長い歳月のなかで多彩に発展を遂げてきました。
本公演では、伝統を担う若手実力派が集い、名曲から現代委嘱作品まで幅広く演奏します。
若き演奏家たちが紡ぎ出すアジアの響きを、どうぞ心ゆくまでご堪能ください。





長谷川直子
一般社団法人雅楽協会 事務局長。
慶應義塾大学大学院文学研究科美学美術史学専攻(アート・マネジメント分野)修士課程修了。
日本の文化芸術をめぐる環境整備に貢献したいと、日々奔走中。
千年以上の歴史を持ち、日本のさまざまな伝統芸能に影響を与えてきた雅楽をリスペクト。